肖像権に関する代表的判例

プライバシー権(人格権)

石に泳ぐ魚事件

この事件は、小説「石に泳ぐ魚」について、そのモデルとされた作者の知人女性が公表を望まない個人情報を掲載した小説を発表することがプライバシー侵害にあたり、また名誉毀損や名誉感情の侵害もあるとして、出版差止めおよび損害賠償と謝罪広告を求めて、作者と出版社および発行者等を提訴した事件です。

原審である東京高裁は、次のように判断して、プライバシー権の侵害による差止請求を認めました。
「人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。そして、どのような場合に侵害行為の事前の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは事前の差止めを肯認すべきである。」

この判断を受けて、最高裁は次のように判示して、東京高裁の判断を肯定しました。
「公共の利益に係わらない被上告人のプライバシーにわたる事項を表現内容に含む本件小説の公表により公的立場にない被上告人の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害されたものであって、本件小説の出版等により被上告人に重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるというべきである。したがって、人格権としての名誉権等に基づく被上告人の各請求を認容した判断に違法はなく、この判断が憲法21条1項に違反するものでない」

差止請求を認めるためには、原則として明文の規定が必要ですが、名誉権に基づく差止請求については、北方ジャーナル事件(最高裁昭和61年6月11日判決民集40巻4号872頁)にて既に認められていました。この判決は、法律の明文の規定がないにもかかわらず、プライバシー権に基づく差止請求についても、最高裁がはじめて認めたものです。